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名古屋地方裁判所 昭和43年(ワ)1212号 判決 1976年4月27日

原告

大幡鉱業所こと

関口秀之助

右訴訟代理人

古井戸義雄

外一名

被告

株式会社

三和信商

右代表者

杉浦元有

被告

杉浦元有

被告

株式会社

大起産業

右代表者

大山勝治

被告

大山勝治

右被告二名訴訟代理人

野島達雄

被告

伊藤一男

被告

三和住宅株式会社

右代表者

伊藤一男

右被告二名訴訟代理人

大場民男

外四名

被告

株式会社

東海事業所

右代表者

近藤精一

右被告訴訟代理人

伊藤富士丸

外三名

主文

原告の各請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1  被告らは原告に対し、連帯して金五〇〇円およびこれに対する昭和四〇年五月二七日から右支払ずみにいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二、請求の趣旨に対する答弁(被告ら全員)

1  原告の各請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一、請求原因

1  原告は、愛知県瀬戸市大字本地地内に別紙目録記載の土地(以下、「本件土地」という。)を含む一一万四、六〇〇坪(三、七八八アール)の区域を鉱区とする亜炭採掘権(愛知県採掘権登録第一四二号)を有し、亜炭の採掘を業としているものである。

2  被告大山勝治および被告伊藤一男は、昭和四〇年四月初め頃、共同事業として被告大山の所有にかかる前記本件土地を宅地として造成するために、この宅地造成および分譲に関する工事(以下、「本件工事」という。)を被告株式会社三和信商に委任し、同被告は、右造成工事について愛知県知事の認可を得て被告株式会社東海事業所に右工事を請負わせて、その頃本件工事に着手するにいたつた。

3  原告は、被告東海事業所が本件工事に着工すると同時に被告三和信商の代表者である被告杉浦元有および被告東海事業所の現場作業員らに対して、本件工事を施行している土地の地下には原告の亜炭採掘のための坑道が存在すること、本件工事施行区域の付近一帯には通風口(立坑)が設置してあること、ところが本件工事に使用しているブルドーザーは大型であるためこれらを崩壊させるおそれがあることを再三にわたり警告したのであるが、被告杉浦および現場作業員らは右警告にも拘わらず何らの保護的措置をとることなく不注意にも漫然と本件工事を施行した過失によつて、ついに、昭和四〇年四月二六日ブルドーザーの地均作業の震動やその重みのために坑内の一部が崩壊したのを最初に、同年五月八日には南立坑すなわち、南坑のある原告所有地内にブルドーザーが侵入して土砂を南坑の地上部分の木枠に押しつけたため、枠が壊われ土砂が落下して坑道が埋まつてしまい、そのため通風を不可能にするなど、相次いで坑道が崩壊して閉鎖し、そのためガスが発生して同日頃以降原告は亜炭採掘業務を中止するのやむなきにいたつた。

4  右により原告の蒙つた損害は次のとおりである。

(一) 逸失利益金六九七万五、〇〇〇円

原告の本件亜炭鉱の推定埋蔵炭量は約九、〇〇〇トンで、実収炭量はその五〇パーセントに相当する約四、五〇〇トンが見込まれるところ、原告は一トン当り価格三、一〇〇円で売却しており、右価格から採炭諸経費(労務賃、電気代等合計五〇パーセント相当)を控除した一、五五〇円が一トン当りの純利益である。従つて、右金額に四、五〇〇トンを乗じた金六九七万五、〇〇〇円が原告の逸失利益となるべきところ、原告は内金四五〇万円を請求する。

(二) 慰藉料金五〇万円

原告は被告らの前記第3項の不法行為によつて生業を奪われたが、その慰藉料は金五〇万円を下らない。

(三) 合計金五〇〇万円

5  ところで、各被告は原告に対し、次理由によりいずれも不法行為に基づく損害賠償の責任を負うものであり、その責任は数人が共同の不法行為により損害を加えた場合にあたるので、各自の連帯責任となるものである。

(一) 被告杉浦は、本件工事を施行するにつき前記第3項の過失により原告に前記第4項の損害を与えたから民法第七〇九条による。

(二) 被告三和信商は、本件工事を施行するため被告杉浦を使用する者であるところ、被告杉浦には本件工事の執行につき前記第3項の過失があつたから被告三和信商につき同法第七一五条第一項による。

(三) 被告大山および被告伊藤は、本件工事を施行するため被告三和信商にこれを委任したのであるが、被告三和信商およびその代表取締役である被告杉浦は被告大山、同伊藤の指揮監督に服し独立の地位をもたず、結局、被告大山および被告伊藤が被告三和信商および被告杉浦に対し使用者たる地位に立つものであつたところ、被告杉浦には本件工事の執行につき前記第3項の過失が、また被告三和信商には前記(二)の責任があるから、被告大山および被告伊藤については同法第七一五条第二項による。

なお、本件宅地造成地は土地に人工を加えて造つたものであるから土地の工作物というべきところ、被告大山は、本件土地の地下およびその付近の坑道、通風口たる南坑の崩壊を防止するための何らの保護的措置もとらなかつたものでこのことは同被告のなした土地の工作物の設置に瑕疵があつたというべきであるので、同被告は本件土地の占有者または所有者として同法第七一七条第一項の責任も併せ負うものである。

(四) 被告東海事業所は本件工事を施行するため現場作業員を使用するものであるところ、現場作業員には本件工事の執行につき前記第3項の過失があつたので、同被告については同法第七一五条第一項による。

(五) 被告株式会社大起産業および被告三和住宅株式会社は、昭和四〇年七月頃、被告大山および被告伊藤により被告三和信商にかわつて本件工事の施行を委任されたものであるが、その際、被告大起産業と被告三和住宅とは、原告に対し、被告三和信商と重畳的に被告三和信商の原告に対する前記(二)の損害賠償債務を引受けたものである。

仮に右が認められないとしても、その頃、被告大起産業と被告三和住宅とは、被告三和信商との間で、同被告が第三者である原告に対して負担する前記(二)の損害賠償債務を原告に履行すべき旨を約したものであつて、原告は本訴において被告大起産業、同三和住宅に対し、右契約の利益を享受する旨の意思表示を発し、右意思表示は昭和四三年五月一一日頃右被告らに到達した。

6  よつて、原告は被告らに対し、連帯して第4項記載の逸失利益の内金四五〇万円および慰藉料五〇万円の合計金五〇〇万円ならびにこれに対する坑道、南坑が崩壊した日の後である昭和四〇年五月二七日から右支払ずみにいたるまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。<以下、省略>

理由

一原告の採掘権の有無および原告事業の内容

1  はじめに、原告の採掘権の有無について検討する。

<証拠>によれば、原告は、愛知県瀬戸市大字本地(旧地名、愛知県愛知郡幡山村)地内に鉱区面積一一万四、六〇〇坪(三、七七八アール)、登録番号愛知県採掘権登録第一四二号の亜炭を目的とする採掘権を有し、大幡炭鉱の名称で亜炭の採掘、販売の業務をなしていたこと、そして、右採掘権は、もと訴外八幡鑛業有限会社が昭和二四年に亜炭採掘権(愛知県採掘権登録第一四二号)として設定登録したものであるが、その後訴外中村一、同大月鉱業株式会社へと転々譲渡され、昭和三八年九月三〇日に原告が右大月鉱業株式会社からこれを譲受けて取得するにいたつたものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。

2  そして、<証拠>を綜合すれば、次の事実を認めることができる。

原告が前認定の亜炭採掘権を有するところの前記鉱区の区域の地表は大部分山林と畑で、地上には水田や民家、池、道路などがあつた。本件鉱山の操業現場には、井戸金坑(深さ36.3メートル)と南坑(深さ40.1メートル)の二本の立坑があり、井戸金坑は坑内作業員の昇降および採掘した亜炭の搬出兼入気口として使用され、そこからほゞ南東に二〇〇メートル余り主要坑道を設け、井戸金坑を起点として主要坑道沿いに約一〇〇メートル進んで東にずれた地点に南坑があり、排気口兼非常口として使用されていた。南坑は、坑口の面積約一間四方で、坑口の地上部部分は地面とほゞ同一平面で坑口の上にやぐらは組んでなく、坑口から地下へむけて深さ約一〇メートルほど土砂の崩壊防止のための板囲いを施しただけのもので、坑口の地底には排気用の扇風機が設置してあつた。主要坑道は地上から深さ平均約四〇メートルの地中にあり、坑道の中は高さ約1.5メートル、幅員約1.5メートルで、落盤防止のため、天井に約0.2ないし0.3メートルの厚さで炭層を残し、ほゞ一メートル間隔で木枠が組んであり、もつとも天井、側壁の状態によつては木枠のないところもある、また、木枠の間に矢木を入れて矢板囲いをしたところもあつた。そして、主要坑道には採掘した亜炭を運搬するための台車の軌道が敷設されてあり、亜炭の運搬等に使用されていた。主要坑道の東壁には約三〇メートル間隔で採炭のための坑道(目貫)が数本ほゞ東方へ走つており、そのほゞ三〇メートル先に主要坑道とほゞ平行に坑内に空気を流通させるための連延坑道が設けられていた。そして、本件土地は本件鉱区の区域内に包摂されており、南坑は本件土地の西側境界から数メートルないし十数メートル隔てた原告所有地内に設置してあつて、付近の地上には雑木が生い茂つていた。本件鉱区は、東部採掘区域、西部採掘区域、主要坑道採掘区域の三区域に区頁岩層に含まれ分され、昭和四〇年四月当時は東西両区域の採掘はほゞ終了して、主要坑道採掘区域で採掘が行なわれていた。炭層は、ており、炭層の天盤は軟質の頁岩または木節まじりの粘土質頁岩、所により砂層が交わつているため、崩壊しやすい箇所があり、岩層の下盤は粘土質頁岩と砂質頁岩で、粘土質頁岩は水を含むことによつて泥状化する傾向が強いので、坑道には比較的軟弱なところがあつた。坑内の施設、設備の安全管理については従業員菊地好秋が保定係に指名されており、また通産省名古屋通産局名古屋鉱山保安監督部の検査が定期的或いは抜き打ちに行なわれ、その都度坑道の支柱等保安施設の維持管理について指示ないし注意が与えられていた。そして、プロパンガスの需要が急速に伸び始めるに伴い、亜炭の需要は逐年減少傾向にあり、業界でも亜炭鉱山経営の見通しは決して明るいものではなく、本件大幡炭鉱も人員などその規模を漸次縮少してきており、当時、原告外七名位のものが採炭、運搬、選炭等の坑内外の作業に従事しているにすぎず、同年三月末における同年度の生産量は、月産平均五〇トン、六か月間稼行で年間三〇〇トンしか見込まれておらず、前年度、前々年度と比較してその三分の一から四分の一強の生産量に留まるものであつた。採掘方法としては、通常の掘進以外にいわいる後ずさり坑法すなわち通常は落盤防止のために炭柱を残しながら掘進していくのであるが、廃坑にする場合などには残された炭柱を切り崩しながら坑口へ向つて後ずさりするような形で掘る、このような方法をも併用していた。なお、以上の本件鉱区の範囲(ただし、本件事件の関係部分)、本件土地、主要坑道、井戸金坑、南坑等の位置関係はほゞ別紙図面記載のとおりであつた。

かように認めることができ、<証拠判断略>。

二本件工事の施行

1  まず、原告は、本件四筆の土地が被告大山の所有するものであり、同被告と被告伊藤の共同事業として、造成工事を被告三和信商に委任して本件工事を施行した旨主張するのでこの点について判断する。なるほど、<証拠>には右主張に副うかのような記載があるが、一方、<証拠>によれば、本件四筆の土地はいずれも以前訴外三進陶器株式会社の所有にかかるものであつたところ、昭和四〇年三月二二日右三進陶器株式会社と被告三和信商との間で、本件土地につき代金完済時をもつて所有権移転時期とし、このときに所有権移転登記およびその引渡をなす約で売買契約が成立したこと、しかし、売主三進陶器株式会社としては買主たる被告三和信商の支払能力に危惧を抱いていたので、買主は真実は被告三和信商なのであるが、契約書には被告大山を買主と表示して、被告三和信商が代金を支払わないときは被告大山が支払義務を負うこととして契約書(丁一号証)を作成したこと、そして、被告三和信商は同年四月上旬頃、本件土地を宅地として分譲するためその造成工事を被告東海事業所に請負わせたこと(被告東海事業所が被告三和信商から本件工事を請負つたことは、原告と被告東海事業所および同大山、同大起産業との間には争いがない)、会社には子会社である訴外三栄工機株式同被告これの下請をさせたこと、以上の事実を認めることができるのであつて、<証拠>も右認定事実の経緯に照らして右認定の妨げとはならず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

2  そして、前掲各証拠を綜合すると、下請をした訴外三栄工機株式会社は前記造成工事について県知事の許可がおりる以前である昭和四〇年四月一七日頃から工事に着手したこと、工事の内容としては、本件土地はいずれも畑や山林で(この点は前認定のとおり)起状が多かつたので、高地の部分の土をブルドーザーで削つて低地へ運び土地全体を宅地に適するよう平坦にならして整地し、道路、排水溝等を設置するというものであつたこと、工事には右三栄工機株式会社の近藤友太郎を現場監督として17.8トンの中型ブルドーザー三台位が稼働した外測量士人夫等合わせて六名前後の者が従事したこと、そして、ブルドーザーは土地の高低の関係から本件鉱区の西部採掘区域に該当する部分を中心に稼働したこと、原告は工事が始まつて間もなく現場の右近藤に対して、本件造成工事の現場近くに通気口である南坑があるから注意するようにと二、三度申入れたことがあること、右工事は同年七月二〇日頃には完工したこと、なお、以上の本件造成工事の区域および道路等の位置関係はほぼ別紙図面記載のとおりであつたこと、以上の事実を認めることができ、<証拠判断省略>。

三落盤の発生

<証拠>によれば、昭和四〇年四月二五日午後五時頃から翌二六日午前四時半頃までの間に、本件鉱山の井戸金坑から主要坑道に沿つて南東におよそ六〇ないし七〇メートルいつたところの第三目貫付近の主要坑道で落盤が発生したこと(以下、「四・二六落盤」ともいう。)、そして右落盤は、それまでも天盤の浮石が落下したり或いはカメが落下して坑道を閉塞することはしばしばあつたのであるが、そのような従前のものとは規模が異なり大規模なもので坑道が完全に閉塞し、通行はもとより空気の流通も止まり、炭酸ガスが発生して、坑内では酸素マスクを付けないと呼吸が困難になるほどのものであつたこと、更に、同年五月一八日には南坑において坑口の木枠がゆがんで土砂が落下し、坑口の底にこれが堆積して坑口が閉塞してしまつたこと(以下、「五・一八落盤」ともいう。)、四・二六、五、一八各落盤の位置がほゞ別紙図面記載のとおりであつたこと、以上の事実を認めることができ、<証拠判断略>。

四落盤の原因

1 まず、四・二六落盤の原因について考えてみる。

<証拠>によれば、なるほど、四・二六落盤が発生したのは本件宅地造成工事が始まつてからであること、当時造成工事のためにブルドーザーが常時三台位本件土地上で稼働していたこと、坑内にいても地上で稼働するブルドーザーの音が聞えたこと、右落盤の発生する以前には坑内では何らその前兆となるような変化が認められなかつたこと、以上の事実が認められるところ、更に、右落盤は以前にたびたび起こつた坑内の落盤と異なり落盤地点の坑道が全部埋つてしまうほど大規模なものであつたことは前認定のとおりであるから、右事実からすれば四・二六落盤は本件土地上で稼働していたブルドーザーの震動、重み等がその原因となつて惹起されたのではないかとの疑が生じうる。しかし他方、<証拠>によれば、右落盤の発生した坑道は地上からおよそ四〇メートルの地中で坑道の天盤には約四〇メートルの厚さの土壌があること、本件工事に使用していたブルドーザーは―7.8トンでせいぜい中型といえる程度のもの(この点は前認定のとおり)で、右ブルドーザーの接地圧すなわち単位面積の地面にかかる重量もそれほど大きいものとは思えないこと、本件坑道の地質は比較的軟弱であつたこと、坑内の保安施設は必らずしも完全ではなかつたこと、規定外の濫掘をしたため原告が鉱山保安監督部の注意を受けたこともあること、坑内で採炭作業に従事していた原告従業員菊地好秋、同小倉正三らは地上で稼働中のブルドーザーの影響で坑内に落盤が発生するなどとは夢想だにしておらず右影響による危険を全く感じていなかつたこと、本件落盤が発生した地点はブルドーザーが稼働していた直下ではないこと、造成工事区域内の坑道には落盤、崩壊等生じていないこと、以上の事実も認められるのであつて、結局、以上認定の事実を綜合して判断すれば、本件落盤の原因を地上で稼働していたブルドーザーの重みや震動に起因するものと断定することはむずかしく、すなわち、右ブルドーザーの稼働がなかつたならば右落盤もなかつたであろうと断定すること、つまりこの両者の間の事実的因果関係を肯認することは因難であつて、他にこの判断を動かすべき資料はない。かえつて、右認定事実に、前記一で認定したような本件鉱山の操業の規模、従来からの採掘の経過、亜炭鉱業はすでに斜陽産業化していたこと、ならびに、前掲各証拠によつて認めうる落盤が発生すると早速原告は翌日から坑内に残つているトロツコの軌道、電線、排水ポンプ等の坑内作業用器材を可能なかぎり地上に引揚げてしまいまた落盤後数日のうちに当時の従業員七名が全員退職してしまつたこと、および被告三和信商に対する原告の被害補償請求(甲第四号証)も、事実、落盤による土砂の取明作業を行ない鉱山を復旧して事業を再開するというよりも、むしろ、たんに損害賠償請求をするために作成したものと認められること、以上の事実を併せ考えれば、本件鉱山は地質が比較的軟弱であつたのであるから、坑道の落盤、崩壊を防止するため、坑内の保安施設の維持管理については通常より以上の注意を払わねばならないものであつたところ、原告は、本件鉱山の将来についてすでに見切りをつけており保安施設の維持管理等設備投資をすることよりも、むしろさしあたりの出炭量の確保、増加により力を入れていたであろうことを推認するに難くなく、結局、本件落盤は、坑内の保安施設の、設置、管理の瑕疵に起因するのではないかとの疑が濃い。

2 次に、五・一八落盤の原因について考えてみるに、原告本人の供述中には本件土地上で稼働していたブルドーザーが南坑の付近で土砂を坑口に押しつけたため坑口の木枠がはずれて坑口の土砂が大量に落下して坑口の地下を埋めたとの供述部分があることが分るけれども、右供述は<証拠>に照らしてたやすく措信しがたく、他にこれを認めるに足る証拠はない。かえつて、<証拠>によれば坑口の木枠および矢板等の設置、管理が必ずしも十分でなかつたことが認められるのであつて、この事実によれば右落盤もまた右保安設備の設置、管理の瑕疵に起因するのではないかとの疑の濃いものである。

3  以上の次第で、原告の本訴請求は原告のその余の主張について判断するまでもなく理由がない。

(なお、念のために附言すれば、元来鉱業権は、鉱区内に存する登録を受けた未採掘鉱物およびこれと同種の鉱床中に存する他の未採掘鉱物を掘採、取得しうる権利であり、その性質は物権であるとされているが、鉱区内であつても当然にはその地表を使用する権利を含まないものであることは言を俟たないところ、他方、鉱区の地表についてはその土地の使用権利者は、鉱物の掘採、取得を目的としない限り、鉱区の存在によつて当然には右地表の使用を妨げられないのであるから、本件において鉱業権(採掘権)者たる原告が地表の使用権利者らである被告らから四・二六落盤による損害の賠償をうけうるためには前記の事実的因果関係を主張立証することのほかに、被告らの本件土地の使用が原告に対する関係において違法なものである旨を首肯させるにたりる事由を主張立証する必要がある、というべきである。)

五結語

よつて、原告の各請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(海老塚和衛 小林眞夫 川上拓一)

目録、図面<省略>

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